この旅が始まってすでに1ヶ月たった。 「うわっちゃー。今日も暑いなぁ〜。」 川辺にいるバンダナをした少年。そのバンダナを外し、川の水につける。そして、それを首筋に持っていく。 「ふぅ!きっもちい〜!」 そこまでして、振り返り、大声で叫んだ。 「お〜い!2人とも〜〜!!気持ちいいよ〜〜〜!!おいでよ〜〜〜!!」 そして靴を脱ぎ、ズボンの裾を上げて川に入っていく。 「まったく…。子供ね。あんなことではしゃいで。」 「自分だって子供じゃん。どうせ、一緒に遊びたいって思ってるくせに。」 「なっ!何言ってるのよ!!だったら、チビちゃんが遊んでくればいいでしょ!」 チビちゃんと呼ばれている子はポポイ。妖精だ。 そして、今、真っ赤になって反論した子が、プリム。 「んじゃ、お言葉に甘えて。ばっいば〜い!」 そう言って川に走り出すポポイ。なかなかのスピードだ。 「お〜い!アンちゃ〜〜ん!!」 アンちゃんと呼ばれた少年、ランディ。 この3人で旅をしている。まあ、そうなるまでにはそれなりにハプニングがあったのだが。 「あれ?プリムは?」 ポポイが靴を脱いで川に入ろうとしたとき、ランディが聞いた。 「さあ?遠慮してるんじゃない?」 くすくす笑いながら答えるポポイ。 「遠慮?何の遠慮だろう…?」 ポポイの発言にちょっと首を傾げたが、ポポイが水をかけ始めたため、その思考は中断され、お互いがびしょぬれになるまで水をかけあった。 その間中、プリムはずっと日陰で2人の様子を見ていた。 「ふぅ。ったく、びちょびちょになっちゃったよ。」 「え!?僕のせい!?」 「そうそう。オイラのこの服、どうしてくれるのさ。」 「えぇ!?そんなこと言われても…。」 「嘘だって。アンちゃんはすぐ本気にするんだから。」 「騙すなよ〜……。」 そんな会話をしながら、プリムのもとに来た。 「あ〜あ。びしょびしょになっちゃって。聖剣の勇者が聞いて呆れるわね。」 プリムが溜息混じりに言う。 こんな時のプリムはいつも機嫌が悪い。そうわかっているランディは多少腹が立ったが、我慢してこういった。 「えぇ〜?でも、おもしろかったよねぇ?ポポイ。」 プリムがこれ以上機嫌が悪くならない程度の皮肉めいた言葉。 「おもしろがってたのはアンちゃんだけだったけどね。」 皮肉めいた言葉を言わせるならポポイがダントツで1位なので、ランディはこのポポイのセリフを真正面から受けることはせず、平静を装って聞き流した。 ランディも1ヶ月共に旅をしているのだから、2人の性格を把握しているらしい。 「さて、と。僕とポポイはちょっと着替えてくるから、もうちょっと待っててね。」 そう言ってランディは歩き始める。ポポイはプリムをチラッと悲しげな表情で見て、ランディを追いかけていった。 プリムは大の字に寝転がった。ここ1ヶ月、とても短く感じた。 ランディやポポイと旅をして、本当に楽しい。しかし、やっぱり心のどこかで思っているらしい。 「ディラック…。」 どこにいるのだろうか?もしかしたら、今、戦闘の真っ最中なんじゃないのか?それなのに、私はこんなところで笑ってていいのだろうか?ものすごく不安になる。 こういう時はなぜかとても不機嫌になってしまう。 普通の人なら、こういう態度をすれば怒ってくるが、あの2人は違った。 それがプリムには嬉しかった。 「………ほっ!」 そうだ。ここでうじうじしてても仕方がない。悩んだところでディラックに会えるわけでもない。私が今できることは、ディラックが無事でいることを祈ることと、今を生きること。そう、今を…。 「おまたせ〜。って、あれ?」 2人が戻ってきた時、プリムがいなくなっていた。 「おっかしいなぁ〜?どこ行ったんだろ。」 あちこち見回したが、それらしい人影は見当たらない。 「お〜〜い!!プリ……どぅわ!!!」 叫んでランディが呼ぼうとした時、急に木の上から何かが降ってきた。 「おっそ〜〜い!!ちんたら着替えてんじゃないわよ!!」 降ってきた何かは、プリムだった。 「まったく、女の子を待たせるなんて、男の子失格ね。」 「いてて…。ごめんごめん。けど、いつものプリムに戻ってよかった。やっぱ、プリムはこうでなきゃ。」 頭をさすりながら、ランディは笑った。 「アンちゃん、心配してたんだぜ?『僕が何かできることないかな?』ってな。」 ポポイが言う。 「ちょっ!そんなこと言うなって!!ポポイ!」 ランディは慌ててポポイを追いかける。笑いながらポポイは「やーい」と言いながら逃げ回っている。 それを穏やかな表情で見ているプリム。そして、緩やかに時が流れた…。 その日の夜。 ポポイの寝息が聞こえ始めた時、ランディは外に出た。 外は昼の時とは違い、ひんやりと涼しい。 かすかに虫の声が聞こえ、辺りは真っ暗で静まり返っている。 「…綺麗だ……。」 どんなに気持ちが高ぶっていても、落ち着くことが出来るだろう。 しばらく座ってぼーっとしていた。 …どれくらい時間が経っただろう………。 そろそろ戻ろうか。そう思った時、不意に後ろから声がした。 「ランディ!?」 聞き慣れた声だった。ちょっと驚いている声。 「…プリム。」 振り向いてその名を呼んだ。 「どうしたの?こんな夜遅くに。」 「それはランディにも言えることでしょ?」 苦笑しながらランディの隣に行く。 「隣、いい?」 「どうぞ。」 プリムがランディの隣に座り、しばらく2人とも黙って空を見上げていた。 「ねぇ。ランディ?」 「ん?何?」 「今日さ、あの、どうして心配してくれたの?」 唐突すぎる質問に少々戸惑うランディ。ちょっと考えて、言った。 「それは、プリムが大切な『仲間』だからだよ。」 「!」 ランディは言葉を続ける。 「やっぱりさ、プリムもそうだけど、ポポイもさ、元気がなかったら嫌なんだよ。2人が元気になってくれるんなら、僕は出来る限りのことをするよ。大切な『仲間』だから、さ。」 照れて、頭をかきながら、言葉を一生懸命探し、つまずきながらもランディは力強く言った。 「大切な…仲間……?」 聞き返すプリム。 「うん。そう。大切な仲間。」 それにもう1度力強く応えるランディ。 そういえば、ポポイの寝息が聞こえなくなっている。 そのことには気付かない2人。 「あ、ありがとう…。」 プリムが言った。 「当たり前のことだよ。だから、そんなこと言わないで?さあ、もう寝よう。」 立ち上がり手を差し伸べるランディ。 プリムは笑ってその手を握った。 Fin |
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