ありがとう

今日は特別な日だった。
朝からそわそわしている一人の女性がいた。
彼女………リリアは意味もなくあちこちに歩き回り、時々、深い溜息を吐く。
「もうちょっと落ち着かないと。」
自分に言い聞かせる様に呟く。

今、時計は午前9時を指していた。あと1時間もすればあの人が来る。
「落ち着け。落ち着け。落ち着け。」
意味もなく言い続ける。文字通り、効果など全くない。それどころか 先程より、緊張してきた気がする。
リリアは、とうとう我慢できなくなり、まだ来るはずもない客が来てるかどうか確かめに行った。
その後も家中を歩き回り、鏡を何度も覗きこんだ。



リリアは数ヶ月前まで、ファ・ディールの各地に旅に行っていた。
その時その時、いろんな仲間に出会った。共に旅をし、共に戦い、共に喜び、共に悲しんだ。旅を通して、いろんな経験をした。彼女はその経験を誇りにしていた。
もちろん、いい経験や思い出だけではなかった。苦しみ、悩んで眠れない日も少なくなかった。それを、持ち前の気持ちでカバーした。
しかし、精神的では元気でも、身体的には追いつかない時もあった。
自分では無理なんてしてないつもりだった。
自分でも気付いてないのに、その人はいつも真っ先に彼女の様態に気付き、すぐに休ませた。
リリアはそのことがなんだか悔しくて、いつも反発していた。

「もう、ほっといてよ。大丈夫だから。」
「何でこんなに構うの?ウザイよ。」

など、自分でも困ったと思うほどひねくれている性格だった。

そんなリリアの性格をサラリと受け止め、ちゃんと理解してくれる人だった。リリアはその人に対する感情が少しずつ少しずつ変わっていくことを自覚していた。しかし、その感情を表に出すことはなく、いつもの調子で話すことが出来た。
それが出来た理由は、いうまでもなくその人のおかげだった。そのことを感謝しつつも、やはり悔しかった。





どれくらい時間が経っただろう・・・・。
気付いたら、もう10時前になっていた。
今までのことを振り返っていたら、ボーっと立っていたらしい。

「あはっ。何やってんだろう。私。」
一人で苦笑しながら椅子に座ろうとした。その時、自分の頬が濡れていることに気付いた。ばかっ。何で涙なんか………。
涙を拭こうとしたら、嗚咽が出てきた。
もう、どうにも止まらなかった。拭いても拭いても止まらない涙…。リリアはその行為をやめ、ただただ泣きつづけた。

「今まで泣いたことなかったのに…。泣かないって決めたのに…。」
どうして私はこんなにも弱くなってしまったんだろう。どんなに辛くても泣かない自信があった。それなのに…。


ピンポーン。


ベルが鳴ったのはその時だった。


ピンポーン。
もう一回鳴った。
リリアは驚いた。しかし、今の自分を他人にさらけ出す真似はしたくない。ましてや、あの人に。なんとか平静を装うとした。 が、今の自分を止められることなどできはしなかった。
(やだ…。止めようとすればするほど涙が出てくる…。けど、何だろう。この安心感。)
あの人なら、今の私をどうにかしてくれる…。そんな気持ちが自分の中のどこかにあるのだろうか…?

「リリア〜?いないのか〜?開けるぞ〜?」
ドアを開けた瞬間、目が合った。
久しぶりに見た、あの何でも見透かしてしまうような瞳。
「チャ…ボ……。」
その顔を見た瞬間、また涙が流れた。
「ちょっ…ど、どうしたんだよ。」
今日の客、チャボは初めて見たリリアの涙に少なからず動揺していた。 しかし、動揺している場合ではないと瞬時に気持ちを切り替え、隣に 座って言った。
「一体、どうしたんだ?少なからず、俺はお前の泣き顔を見てビビってるんだ。ま、ちょっと落ち着けよ。」
そう言って、お茶を持ってこようと席を立とうとした。しかし立てなかった。
なぜなら、リリアがチャボの袖を引っ張って離さないからだ。
「おいおい…。ちょっとお茶を持ってこようと立っただけだぜ?」
しかし、リリアは首を振るだけで離そうとしない。しかたなく、チャボは席に座った。



「さて…。落ち着いたか?大丈夫か?」
しばらく黙っていたチャボが口を開く。
その問いに小さくうなずくリリア。
「そうか。よかったよ。」
リリアの反応に安堵の息が漏れる。チャボは本題に入った。
「まあ、お前も人間だから泣くことはあると思ったけど、俺の前で泣くとは思わなかったよ。それで?一体どうしたっていうんだ?」
ちょっとからかい気味に聞いてみた。いつものリリアなら絶対につっかかってくる。
「ちょっと何よ、それ。私をからかってるつもり?」
ビンゴ、とチャボは思った。いつもより元気はないが、確実に元に戻っていることを確信した。
「はは。悪い悪い。元気になったどうか試したんだよ。いつもより元気じゃないが、悪態ぶりは変わらねーな。」
苦笑気味に応戦。ここからいつもと同じように口喧嘩。その内、リリアも調子を取り戻してきた。 そして、いつも通りリリアがむきになればなるほど、チャボの思惑通りになり、さらりとかわされ、結局リリアが負ける。

「もぅ…。久しぶりに会っても全く変わってないんだから…。」
負けを認めるのが悔しいから、この捨て台詞を言って試合終了。
「まあな。それはお前も一緒だろ。それより、元気になってよかったよ。それに、泣いてた理由、言いにくかったら言わなくていい。」
チャボの何気に言った言葉がリリアの胸に響く。
「うん…。ありがとう。」
「うわっ!やけに素直だ…。何かたくらんでるのか?」
「何よそれ〜〜〜〜〜!!!!」
その後、第2試合開始。



チャボと話してて、色々なことがわかってきた。
自分は強いようで強くなかったこと。自分を偽ってたこと。ただのやせ我慢でしかなかったこと。つまり、自分は弱くなってしまったんじゃない ってこと。もともと弱かったこと。でも、チャボや旅をして出会った仲間達のおかげで少しずつ、少しずつだけど強くなっていったってこと。
自分はもう一人じゃない。チャボがいる。仲間がいる。そのことがものすごく心強かった。


気付くと、もう夕方だった。あれから、色々なことを話した。
アーティファクトやマナ、このファ・ディール、そして自分自身…。
しかし、リリアにはまだ言いたかったことがあった。けどそれは…。

「そうだった。渡しそびれてたけど…。はいよ。」
唐突にチャボが手渡した。それは、リリアへのプレゼントだった。
「え……?何?あ、開けてもいい………?」
「そのまま捨ててもいいよ。」
後ろを向いたまま、ぶっきらぼうに答えるチャボ。その姿がおかしくて 、笑いながら開けた。
「これは…?」
箱の中には小さな指輪が入っていた。
「なんか、欲しいみたいなこと言ってたからな…。感謝しろよ。結構高かったんだ。」
照れ隠しのためか、頭をかきながら後ろを向いたまま言うチャボ。
リリアは何か吹っ切れたような笑顔でチャボに飛びついた。

「大好き!ありがとっ!チャボ!」

Fin


あとがき

チャボは男主人公。説明にもあった通り、主人公に細かい設定はしてません。名前も公式設定だし。あっ、でも、実際プレイしてるLOM主人公の名前は「キョウ」です。
自分の中でこういったキャラだと言う漠然としたイメージから書きました。
この小説を書いたのが中三の秋。大して気にもしてなかったんでしょう。(笑)
このあとがきを書いてるのが大一。僕も大人になったなー。(何)
とにかく、カッコいい小説を書きたくて、語りの部分に力を入れてた記憶があります。
書き方を変えて、以前の3作より「上手くなった」と初めて自覚できた小説でした。

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